東京地方裁判所 昭和26年(行)73号 判決
原告 財団法人度量衡会館
被告 東京都教育委員会
一、主 文
被告が昭和二十六年十月十六日附教化発第一〇七号指令書を以て原告に対してなした財団法人設立許可取消処分は無効であることを確認する。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決を求め、若し右申立が認容されないときは「右取消処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決を求めると申立て、請求の原因として、
「原告は昭和十五年五月二十四日附文部大臣の許可に基き度量衡その他計量に関する社会教育を行い、国民生活の合理化を図ることを目的として設立された財団法人であり、その後昭和十六年十一月二十日附文部・厚生両大臣の許可を得てその寄附行為を一部追加変更したものであるが被告は昭和二十六年十月十六日教化発第一〇七号指令書を以て原告に対し民法第七十一条に該当する事由があるとして右財団法人設立許可を取消し、右指令書は同月二十六日原告に到達した。
けれども被告は右財団法人設立許可を取消す権限を有しないものであるから、被告のなした本件設立許可取消処分は無効である。
仮に然らずとしても前示の如く本件設立許可取消処分は原告に民法第七十一条所定の事由に該当する事実があることを理由とするものであるが、原告に右事実はないので、その処分は取消原因がないのになされた違法のもので、処分自体取消さるべきものであるのみならず、被告は本件設立許可取消処分をなす前に一旦原告の将来の存続を予め原告に対し承認しておき乍ら敢て右取消処分に出でたもので、その処分は著しく公正妥当を欠くものであるから、この点よりするも本件設立許可取消処分は取消さるべきものである。」と述べ、
本案前の被告の主張に対し、
「原告は本訴に於て被告のなした本件設立許可取消処分を違法としてその無効確認又は取消を訴求して居るのであるが、昭和二十七年二月六日提出された本訴の取下書は佐藤衡治外五名が原告代表者名義を使用して提出したものである処、同人等は原告がその効力を争つて居る本件設立許可取消処分が適法且有効であることを前提として選任せられた清算人であり、しかも元来清算人は解散した法人の現務の結了、債権の取立及び債務の弁済、残余財産の引渡並にこれらの職務を行うに必要なる行為をなす権限を有するだけであつて、法人解散の因となつた本件設立許可取消処分の効力を争うことは清算人の権限に属しないものであるから、本訴に於て原告を代表して訴の取下その他の訴訟行為をなす権限を有しない。仮に本訴原告勝訴判決確定迄清算人も訴訟行為をなすにつき原告を代表する権限ありとするも、本訴に於ては原告と佐藤衡治外五名の清算人は利害全く相反するものであり、本訴の取下の如きは原告の利益追及を故意に妨害するものであるから、佐藤衡治外五名の清算人は原告を代表して本訴を取下げる権限はないものと言うべきである。従つて佐藤衡治外五名の提出した前記取下書によつて本訴が終了する筈がない」と述べ、
本案についての被告の主張に対し、
「原告が東京都に主たる事務所を有することは認めるが、文部省設置法第四条によつても明らかな様に、原告に対する主務官庁は文部大臣であつて被告ではない。教育委員会法第四条によれば教育委員会は地方公共団体若くはその長の権限に属して居た教育に関する事務と特に法令の規定によつて教育委員会の権限に属せしめられた教育事務を管理執行することとなつて居るのであるが、法人の設立許可に関する事項を都道府県教育委員会の固有の権限に属せしめる旨を規定した法令はなく、同法第五十条第七号は教育に関する法人に関する事務は都道府県教育委員会に管理執行せしめる旨を規定しただけであつて、法人設立許可に関する事項を都道府県教育委員会の固有の権限に属せしめる趣旨ではない。教育に関する事項は本来国家事務であり、中央行政官庁の権限に属するものであり、被告が現有する教育に関する法人の設立許可に関する事項についての権限は、同法第四条に基き東京都知事より引継いだ権限のみであつて、本件設立許可の取消を被告の固有の権限として被告に属せしめる法令上の根拠はない。
昭和十九年勅令第三五一号許可認可等臨時措置令(以下措置令と略称)、昭和十九年文部省令第三四号文部省関係許可認可等臨時措置令施行規則(以下施行規則と略称)によれば、文部大臣はその所管に属する法人の設立監督についての許認可に関する事項について地方行政官庁に対し広範の権限の委任をなして居るが、それは大東亜戦争中行政事務の簡素化を図り、許認可を迅速ならしめんとする趣旨に出づるものであり、許認可の取消の権限までも委任するものではない。このことは措置令第五条、昭和十一年文部省令第一九号文部大臣の主管に属する法人の設立及び監督に関する規程(以下規程と略称)第十一条に徴するも明らかである。而して被告は教育委員会法第四条により東京都知事の権限に属する教育に関する事務を管理執行することとなつたのであるから、東京都知事も有して居なかつた法人設立の許可を取消す権限を有する筈がない。許認可をなす権限を有する以上、その取消の権限をも有するものであるとの被告の主張は一般的には一理なしとしないが、措置令の趣旨から見て被告の主張は肯認され得ないこと前述の通りであるが、仮に右被告の主張を肯認するとしても、原告はその主たる事務所を東京都に置き、その目的とする事業を全国に亘つて行うものであるから、施行規則第四条第三号(二)によつて被告は原告に対し民法第三十四条の規定による許可をなす権限はこれを有しないものであり、従つて右設立許可の取消をなす権限もないものである。
次に原告が被告主張の如き目的を達するため、被告主張の如き事業を行うものであること、原告が東京簡易裁判所に於て度量衡法違反事件につき有罪の判決を受けたこと、同判決が昭和二十六年六月二十四日原告の上告の取下によつて確定するに至つたことは認める。然し原告は終戦後度量衡器等計量用器類入手困難の時に、学校その他公共団体より懇請を受け、度量衡器及び計量用器類の有償領布をなしたことはあるが、それはあくまでも営利を目的としたものでなく、前記判決に言う様な度量衡器の販売をしたわけではない。ところで計量用器類の製作領布が原告においてその設立目的達成のために行う事業の一部に属するものであることは被告の自陳する原告の事業(四)の通りであつて、右の如き原告の行為を以て原告の公益法人としての責務に背くものと言い得ないことは明らかである。然るに被告は右行為を目して民法第七十一条に該当するものとして本件設立許可の取消をなしたものであるからその取消は違法である。
又被告は原告が前記度量衡法違反事件について有罪判決を受けた後である昭和二十六年六月六日附で被告主張の如き寄附行為変更の許可をなして居り、その行為自体原告の将来の存続をその前提として承認し民法第七十一条所定の事由のないことを認めて居たものと言うべきである。昭和二十四年五月十四日附の被告主張の如き内容の通牒があり、原告はその効力を争つてその取消を訴求して居たのであるが、右通牒は原告の将来の活動に対する注意にすぎない旨原被告間に諒解が成立し、原告は被告の同意を得て右訴訟を取下げた。原告は前記の有罪判決について上告して居たのであるが、被告が原告の将来の存続を認めるとの諒解の下に原告は右上告を取下げたのである。斯の如く被告は一旦原告に民法第七十一条所定の事由なく原告の将来の存続は承認すべきものとして置きながら、突如として本件設立許可の取消をしたのは著しく公正妥当を欠くものと言うべきである。」と答えた。
被告指定代理人は、「本件訴訟は昭和二十七年二月六日原告の訴の取下、被告の同意によつて既に終了して居る。」と主張し、
「仮に終了して居ないとするならば請求棄却の判決を求める。」と述べ
「原告が度量衡その他計量に関する社会教育を行い国民生活の合理化を図ることを目的とし、昭和十五年五月二十四日附で、右事項を所管して居た文部大臣の許可を受けて設立された財団法人であること、及び被告が昭和二十六年十月十六日附教化発第一〇七号を以て原告主張の事由を理由として右財団法人設立許可を取消し、右指令書が同月二十六日原告に到達したことは何れも認める。」と答え「原告の主張する昭和十五年五月二十四日附の右法人設立許可のあつた当時に於ては原告に対する主務官庁は文部大臣であつたが、昭和二十三年七月十五日、教育に於ける地方分権主義の確立を目的とし、教育委員会に文部大臣から独立した広範な権限を与え教育に関する行政は原則として教育委員会が行うものと定めて居る教育委員会法の施行に伴い同法第四条第一項後段の規定によつて被告が原告に対する主務官庁(民法所定の公益法人に関する規定中の用語としての)となつたものである。殊に同法第五十条第七号によれば教育に関する法人に関する事項は都道府県教育委員会の専権に属するものとして居るのであつて、被告は東京都に主たる事務所を有する原告に対する監督権を有することとなつたのであり、その監督権に基いてなされた本件設立許可の取消は被告の権限内に属するものである。
仮に原告が文部大臣の所管に属する法人であるとしても昭和十九年六月一日施行された措置令並に施行規則によつて法人の主たる事務所々在地の地方長官が文部大臣の有して居たその所管に属する法人に対する設立及び監督に関する権限を同大臣より委任せられた結果、東京都長官(地方自治法施行後は都知事)が東京都に主たる事務所を置く原告に対する主務官庁となつたのであるが、昭和二十三年七月十五日教育委員会法の施行に伴い東京都知事の権限に属して居た右設立及び監督に関する事項は、教育に関する限り被告が原告に対する主務官庁として監督権を有することになつたのである。もつとも措置令・施行規則の規定する処は条文上は許認可の権限の委任と言うことになつて居るのであるがその趣旨とする処は法人の設立及び監督についての許認可に関する事項は、特に中央行政官庁に留保する規定なき限りすべて地方行政官庁に委任するものであり、他方許認可取消の権限を中央行政官庁に留保する旨の法令の規定はないのであるから許認可取消の権限も地方行政官庁に委任せられたものと言うべきである。文部省設置法第五条第一項第十三号、第十条第十一号、第十三条第二号の規定はその立言は許認可をなす権限のあることを明言するのみであるが、右規定は許認可を取消す権限をも包含せしめる趣旨と解さねばならぬことから見ても、被告が許認可をなす権限を有する以上、当然その許認可を取消す権限をも有するものと言うべきである。若し然らずとするならば、許認可をなす権限は被告がこれを有し、その許認可の取消をなす権限は被告に対し何等の指揮監督権を有しない文部大臣のみがこれを有すると言う矛盾した行政機構となる。斯の如き矛盾は許されないのであつて、被告は本件設立許可取消をなす権限を有するものと言うべきである。
そこで次に被告が本件原告法人設立許可取消処分をなすに至つた理由について述べる。
原告は前示の如き目的を達する為に、
(一) 会館を維持経営し、本法人の目的を達するに相当なりと認むる講演会、講習会、展覧会その他の集会に供用し、又は自ら此の種集会を開催すること。
(二) 度量衡及び計量に関する図書、参考品等を蒐集し展示閲覧に供すること。
(三) 国民生活の科学化を図るに適切なる計量用具の斡旋をなし又は之が検査の需に応ずること。
(四) 計量科学研究所を経営し適切なる試験用若くは実験用器具及び機械又は教具其の他計量用具類の研究製作及び領布並に技術員の指導を為すこと。
(五) 功労者の表彰を為すこと。
(六) 図書の出版を為すこと。
(七) 其の他前条の目的を達する為必要と認むる事業を為すこと。
をその事業として行う公益法人である。然るに原告は昭和二十一年四月頃から東京都知事(地方自治法施行以前は東京都長官)の免許も受けないで度量衡器及び計量器類を製作し之を不特定多数の顧客に販売し、公益法人としての原告本来の事業は殆んど顧みず、度量衡器類の製作販売に没頭して度量衡法違反の行為を重ねた為、遂に昭和二十一年九月告発され、東京簡易裁判所に於て右事実につき度量衡法違反として有罪の判決を受け、昭和二十六年五月七日右判決は確定した。斯の如く原告が公益法人でありながら全国度量衡業界を攪乱する行為をなしたことは、民法第七十一条所定の事由に該当するものであるから被告は同法同条に基き本件設立許可取消処分をなしたのである。
又被告が昭和二十六年六月六日附教化収第一五九号を以て原告に対し、その寄附行為の一部追加変更を認可したことはあるが、その変更は原告が必要の地に支部、出張所又は連絡所を設置すること、理事監事の定数を減少すること、会費を月額に改め且これを引上げることであり、又適法な寄附行為変更認可申請がすでになされて居る以上、原告の将来に向つての存続活動を承認するか否かとは別に認可申請自体が適法妥当である限りその認可を与えることが当然なのであるから、右の如き寄附行為の認可があつたからと言つて原告の将来の存続を前提として承認したものと必然的に結論できるものではない。
昭和二十四年四月十六日原告が前記度量衡法違反事件に於て有罪の判決を受けた後に、被告が昭和二十四年五月二十四日附教化収第六五号を以て原告に対し左の内容の通牒を発した。
(一) 度量衡器及び計量器の製作は試験用又は実験用のものに限ること。
(二) 試験実験の為に製作したもので其の結果当該製品が一般に領布するのを適当と認めた場合でも官公署の許可を得ないで一般に領布する為の製作をしてはならない。
(三) 領布及び斡旋が不特定多数の顧客に対して行われ、営利行為に亘る様なことがあつてはならない。有料貸付は認めない。
(四) 斡旋は国民生活の科学化を図るに適切な計量用具に限ること。
(五) 修覆については寄附行為中に規定がないからこれをなすべきではない。
然るに原告は右通牒の効力を争い東京地方裁判所に対しその取消を訴求(昭和二十四年(行)第一〇〇号)したので、被告は右通牒は原告の活動に対する注意にすぎず、行政処分ではないとして争つて居たが、原告が同年六月二十四日右訴を取下げたので、被告は訴訟の便宜上その取下に同意を与えた。その同意は単に訴訟の便宜上の行為にすぎず、原告の将来の存続を承認したものではなく、又その様な諒解も存在しなかつた。
更に原告は昭和二十六年六月二十四日、前記度量衡法違反事件の判決に対してなして居た上告を取下げたのであるが、それは全く原告の任意の行為であり、被告が右取下をなすに関し何等かの諒解を与えたという様な事実も存在しない。
以上の如く被告は原告の将来の存続を承認した事実はなく、本件設立許可取消処分が公正妥当を欠く違法のものであるとする原告の主張も理由がないのである。」と主張した。
三、理 由
本訴は取下によつて既に終了して居るとの被告の主張について先づ検討する。本訴は北条時恒が原告の理事たる資格に於て原告を代表して本件設立許可取消処分の効力を争つて居るものであり他方昭和二十七年二月六日附を以て当裁判所に提出せられた本件訴の取下申立書は佐藤衡治、守谷定吉、田島庄五郎、赤堀五作、三田村美津、岡原義二が原告の清算人たる資格に於て提出したものであることは当裁判所に審理上明白である。ところで北条時恒の理事たる資格は本件設立許可取消処分が何等の効力をも生ぜず、従つて原告は解散しなかつたことを前提とするものであり(本件設立許可取消処分が違法ではあるが取消し得るに止まる場合についても清算人の職務権限等から代表者が問題となるがこの点はしばらく措く)他方佐藤衡治外五名の清算人の資格は、本件設立許可取消処分によつて原告は解散したものであることを前提とするものであつて、両者は相排斥するものである。従つて北条時恒が理事たる資格に於て原告を代表して提起した本訴を、これとは全然資格を異にする清算人が原告を代表して取下げることはできず、佐藤衡治外五名の清算人が提出した右本訴取下書によつては少くとも設立許可取消処分の無効確認を求める第一次の請求につき、本訴取下の効力は生じないものと言うべきである。
よつて更に進んで第一次の請求に関する本案について検討する。
原告が昭和十五年五月二十四日附文部大臣の許可に基き、度量衡その他計量に関する社会教育を行い、国民生活の合理化を図ることを目的として設立された財団法人であり、東京都に主たる事務所を置き、その目的を遂行するために被告主張の(一)乃至(七)の事業を為すものであること、被告が昭和二十六年十月十六日附教化発第一〇七号を以て原告に対し右法人設立許可を取消し、該指令書が同月二十六日原告に到達したことはいづれも当事者間に争がない。
被告は教育委員会法は教育に関する行政は原則として教育委員会の行うものと定めて居ると主張するが、教育委員会法第四条によれば、教育委員会は同法同条所定の教育に関する事務を管理執行するものであり、同法第五十条の規定は同法第四条に基き教育委員会の権限に属する事務の中、同法第五十条各号所定の事務は、同法第三条所定の教育委員会の中都道府県教育委員会のみが行うものと定めて居るに止まるから、被告の権限は同法第四条によつて決せられるものであり、抽象的に教育に関する事務は例外規定なき限り教育委員会が行うものであるとする被告の前提はこれを採ることができない。又同法第四条第一項後段の規定は被告の主張するが如きものではなく、文字通りに将来即ち教育委員会法制定後に於て、別に法令により教育委員会の権限について規定せられる場合についてのものであるに止まり、別に法令の規定をまたず本件の如き設立許可取消の権限を都道府県教育委員会の固有の権限としてこれに属せしめる旨を規定したものではない。然も本件設立許可取消の権限を被告の固有の権限として被告に属せしめる旨の法令の規定はないのであつて、教育委員会法第四条第一項後段第五十条第七号により被告がその固有の権限に基き原告に対する主務官庁としての監督権を有するとの被告の主張は到底肯認できるものではない。
原告は文部大臣の許可に基き前示の目的を達する為に前示の事業活動をなすものであるから文部省設置法第五条に徴するも、原告が文部大臣の主管に属する法人であることは明白である。処で昭和十八年法律第七六号許可認可等臨時措置法に基く措置令第四条第一項第一号(イ)、昭和十一年文部省令第一九号第十条第一項本文によれば文部大臣の主管に属する法人に関する許認可の権限は、その法人の主たる事務所々在地の地方長官に委任されて居たのであるが、原告は東京都にその主たる事務所を置くものであるから、東京都知事が原告に対し措置令、施行規則に定められた権限を行使し得たものであることは明かである。措置令第四条第一項は同条第二項に基く例外規定なき限り人又は法人の受くべき中央行政官庁の許認可については地方行政官庁がその職権を行うものと定めて居るのであるが、その許認可の取消についてふれる処がない。被告は許認可をなす権限を委任せられて居る以上当然当該許認可の取消についても権限を有するものであり、又右許認可の権限を委任する趣旨は許認可に関連する一切の事項は特に留保の規定なき限りすべて地方行政官庁に委任するにあると主張するのであるが、なされた許認可そのものに違法の瑕疵がある場合、その違法なることを理由として当該許認可を取消すのは別としてそれ以外の公益上の理由からする許認可の取消は一旦付与した利益を剥奪(本件の場合は特に自然人の死刑に等しい結果となる人格の剥奪である)する処分であり、極めて重大な問題であるから許認可取消の権限の委任をも含むと速断することはできず、右権限の委任が如何なる趣旨に出づるものであるかは専ら各規定全体の綜合的解釈より決せられなければならないのである。そこで措置令第五条を見ると、同条は地方行政官庁に委任された許認可に関連する中央行政官庁の職権中地方行政官庁が行うべき事項を定めこれを列挙して居るが、その第五号には「詐欺又は錯誤に基く許認可の取消及之に伴う原状回復その他の措置に係る命令」があげられて居る。右規定はその前提として許認可をなす権限とこれに関連する事項に関する権限とを区別し、その前者の委任と後者の委任とを分けて規定して居るものと見る外なく、その上許認可取消の権限の委任については右第五号の外には何等の規定もないので、右第五号所定の事項以外に許認可取消の権限の委任はないものと言う外はないのであつて、被告の右主張は到底これを是認することはできない。被告は右の場合許認可をなし得る権限を有しながら、これを取消し得る権限を有しないとするのは不合理であると言うけれども、許可認可等臨時措置法自体に明らかな如く許認可の権限の委任は官庁事務の簡易迅速化の目的のため大東亜戦争中の一時的措置として採られた方途であり、又被告は規程第十一条所定の報告をなすことによつて許認可の取消を促し得る立場にあるのであり、更に前示の如き取消と言うことの重大性を考えれば、取消について慎重を期するため、許認可をなす権限ある者と別の者が別の手続で取消すものと定めることは必ずしも矛盾と言うことはできないのである。而して本件設立許可取消が措置令第五条第五号に該当せざるものであることは明かであり、その他被告に本件設立許可取消権限を附与する法令の規定は遂にこれを発見することはできないのであつて、被告は本件設立許可取消をなす権限を有しないものと言わなければならない。
以上説示の如く被告は本件設立許可取消をなす権限を有しないものであるから本件設立許可取消は当然無効であると断ずべきである。よつて原告の本訴第一次請求は理由があるから正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して被告の負担とし、主文の通り判決する。
(裁判官 毛利野富治郎 北村良一 山田尚)